職人には、強いこだわりがあります。
「このやり方が一番いい」
「ここだけは妥協できない」
そうした姿勢があるからこそ、長年に
わたって技術を磨き、高い品質の仕事を
生み出すことができます。知識や技術、
技能を持った職人は、組織にとっても
非常に頼りになる存在です。
しかし、その「こだわり」が、時として
諸刃の剣になることがあります。
例えば、長年「この方法が一番良い」と
信じて仕事をしてきた職人がいるとします。
ところが、時代が変わり、新しい設備や
デジタル技術が導入される。若い社員から
「もっと効率の良い方法があります」と
提案されても、
「昔からこのやり方で問題なかった」
「そんな方法では良い仕事はできない」
と受け入れようとしない。
本人にとっては、品質を守るための「信念」
です。しかし周囲から見ると、
「変化を拒む人」になってしまいます。
ここで大切なのは、技術を守ることと、
昔のやり方を守ることは同じではないと
いうことです。
本当に守るべきなのは、「なぜその技術が
必要なのか」という本質であって、
その手段まで永遠に変えてはいけない訳
ではありません。
実際、組織学習の研究でも、環境の変化に
対応するためには、これまでの価値観や
前提そのものを見直す「ダブルループ学習」
が重要だとされています。つまり、今までの
やり方を改善するだけでなく、「そもそも、
このやり方でいいのか」と一段深く問い
直すことです。
職人に必要なのは、こだわりを捨てること
ではありません。
「技術にはこだわる。でも、方法には
こだわりすぎない。」
この柔軟さではないでしょうか。
例えば、料理人が「素材の味を最大限に
引き出す」という信念を持っているなら、
調理方法が昔と変わっても、その信念は
守れます。新しい調理器具や科学的な
調理法を取り入れることもできるでしょう。
大切なのは、「何を守り、何を変えるのか」
を見極めることです。
職人の知識や技能は、組織にとって貴重な
財産です。だからこそ、その経験を
「自分だけのもの」にせず、若い世代に伝え、
新しい知識と組み合わせていくことが重要に
なります。
経済産業省の2025年版中小企業白書でも、
熟練者の経験や感覚に基づく暗黙知を形式知に
変換し、技術継承につなげる取り組みが
紹介されています。
本当の職人とは、昔の技術にしがみつく人
ではなく、培ってきた技術を時代に合わせて
進化させられる人なのかもしれません。
「変わらないものを守るために、変わること
を恐れない。」
それが、これからの時代に求められる職人の
姿ではないでしょうか??

